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最高裁判所第二小法廷 昭和42年(オ)1408号 判決 1968年11月15日

主文

原判決を破棄し、本件を広島高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人美村貞夫の上告理由第一点、第三点、第六点について。

原判決は、原判示の事実関係を確定したうえ、防府油脂工業株式会社(以下防府油脂という)が本件代物弁済契約をしたのは国に対する本件土地の払下げ代金の資金を借り受けるためで、本件代物弁済契約をしないとその支払資金の借入れをすることができず、その借入れができなければ本件土地の代金は支払えず、右代金を支払わなければ国によつて本件土地の売買契約(払下げ)が解除され、結局、防府油脂においてその所有権を取得することができない関係にあるから、このような事情のもとでは、防府油脂が山口米油株式会社(以下山口米油という。)に対する借入金を弁済期までに支払うことができず、そのため、本件土地の所有権を時価より低廉な価額で山口米油に移転せざるをえないことになつたとしても、本件代物弁済契約が防府油脂の共同担保を減少せしめて一般債権者を害する行為とはいうことはできないし、また、他の債権者の犠牲において、山口米油のみに利益を与えるために、本件代物弁済契約が締結されたともいえず、結局、本件代物弁済契約をもつて、破産法七二条一号にいわゆる債権者を害する行為にあたるといえないとし、上告人が、原審で主張し、また論旨で指摘するような事実関係の存否について明確な判断をすることなく、上告人の本訴請求を排斥している。

しかし、防府油脂が本件代物弁済契約をするに至つた経緯および本件土地の払下げ代金を支払わなければ防府油脂において本件土地の所有権を取得することができなくなることは、原判決の判示するとおりであつたとしても、本件土地の所有権が払下げによりひとたび破産会社に帰属する以上は、その客観的価額で破産財団を形成し、一般債権者の共同担保の目的となることはいうまでもないから、本件土地を債権者のひとりである山口米油に代物弁済に供する行為が破産債権者を害する行為に当るがどうかを判断するためには、たんに防府油脂の資産状態一般にとどまらず、払下資金の調達について当時他に適切な方法をとることができなかつたかどうかその他これと関連する諸般の事実関係を確定し、これらの事実関係をしんしやくしたうえで、本件土地の払下げを受けるために借り受けた金員とそのために代物弁済に供した本件土地の客観的価額との間の合理的均衡の有無によつてこれを決しなければならないところ、原判決はこのような事実関係について明確な判断を示さないで、前記のような原判決の理由から上告人の本訴請求をたやすく否定したのは、法令の解釈、適用をあやまつた結果、審理不尽の違法をおかしたか、または、重要な間接事実について判断を加えなかつた違法があるというべきであり、この点の違法をいう論旨は理由がある。

よつて、その余の論旨に対する判断を省略して、原判決を破棄して、本件を原審に差し戻すこととし、民訴法四〇七条により、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)

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